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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
満州へいく、といったところで別に当てがあるわけでもない。しかし狭い日本にじっとしてはいられないほど私の野心は並みはずれて大きかった。私は二十五歳であり、時代はちょうど日露戦争直後。資本主義の青春期を迎えた日本の目はようやく大陸へと開け始めたころであった。一定の職のない者、仕事にあぶれ、生活に敗れ、ひと旗あげたいともくろむ人たちにとっては、満州は期待にみちた新天地だったのである。そんな意味で、私も時代の子であったのかもしれない。
お雪との生活の思い出を残す世帯道具をいっさい売払い、私は御堂筋で二円のカーキ色の兵隊服を買い、龍田川丸に乗込んだ。めざすは満州だが、あり金をはたいてやっと手に入れたのは仁川までの切符。あとは無一文だが、どうにかなるという気持だった。焦げるように暑い夏の最中だった。龍田川丸の甲板に立って思い出深い安治川を離れるとき、さすがに涙が流れた。
生きて帰れるかどうか。――舷側では顔見知りの石炭仲仕たちが、船の中で荷役している。一人が私をみつけ、私を見上げながら威勢のよい声で呼びかけた。
『おーい、栄吉つぁん、どこへ行くんや……』
私もなつかしさに胸いっぱいになり、手を口にあてて答えた。