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あきのかご
秋の駕籠
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页
「おれのことをなんて云ったんだ」
「どうせでまかせよ」六助は口を外らせ、腕を貸して中次を立たせた、「女なんてものはおめえ、あとさきの考げえなしにものを云うもんだ、……けれども、こんどばかしは勘弁がならねえ」
「そうだ、こいつばかりは勘弁ならねえ」
二人は伴れだって外へ出た。歩きぶりでひどく酔っていることがわかる、外はさびた紫色にたそがれていた。勝手口からの煮炊きの匂いや物音や、子供たちの騒いでいる路次をぬけ、八丁堀の河岸っぷちへ出ると、そこだけ明るい水面から、冷えた夕風が吹きあげて来た。魚金はつい向う岸に見えるが、そこへゆくには長方形の他の三辺を廻らなければならなかった。二人はもつれるような歩きぶりで、真福寺橋を渡り、そこを右へ白魚橋を渡り、またすぐに弾正橋を渡った。そして、黒ずんでゆく黄昏のなかで、早くも掛け行燈の灯が、橙色にうるみだした、魚金の店へと入っていった。……店の中は夕食の客で混雑していた、二人で掛けられる場所はなさそうであった。そこでかれらは客と客との間をぬけてゆき、小座敷へとあがった。二人が入って来たときから、おそめとおよのは眼をみはったり、なにか囁いたりした。