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あきのかご
秋の駕籠
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页
いわゆる海苔かかであろう、それから小鍋でだし汁を沸かしながら、葱を刻み、卵の自身を椀に溶いて、かきたまを作った。以上のことを手まめにやりながら、お梅は若者に向って云い続けた。
「四年も五年も一緒に稼ぐし、寝起きからなにから一緒にしていて、ふだんは実の兄弟より仲が良いくせに、いつもつまらないことですぐ喧嘩をするのね、あんたもあんただけれど」お梅は店のほうへ来ながら云った、「だいたい六さんが悪いわ、あんたの性分がわかっているのにちっともしんしゃくしないんだもの、あのひとには譲るってことができないんだから」
「うるせえ、よけいなことを云うな」若者がお梅を睨みつけた、「六助はおれの友達だ、おれの友達のことを悪く云うつもりか」
「なにもあたし、悪くなんか、あたしただ」
「六助はいい人間なんだ」若者は椀を取りながら云った、「おめえなんぞ知ったこっちゃねえや」
お梅の眼に涙があふれてきた。お梅は黙って板場のほうへ去った。それは愛する者にすげなくされた娘の、哀しくやるせなげな姿に似ていた。そういう情合がかなりあらわに感じられた。若者は酒を二本飲み、飯を喰べて帰った。お梅はしまいまで給仕をしたが、ひと言も口をきかなかった。