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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

娘はなにか云い返そうとした、けれども右手で誰かを呼ぶような身振りをし(「しようがない」とでもいうように)のれん口から板場へ入っていった。二人の小女は奥で朝食を喰べていた、店にはほかに客はなく、拭き込んだ飯台に外からの光りが映って、冷たそうに光っていた。若者は顔を歪めて舌打ちをした。それから口の中で低く呟いた。

「ちぇっ、癪に障る、強情な野郎だ」

娘が膳を運んで来た。

「お肴がないんだけれど、なにか拵えましょうか」

若者は黙っていた。

「かきたまお好きだったわね、かきたまに海苔かかでも作りましょうか」

「いらねえよ、そんなもの」

若者は膳の上から徳利を取った。

「どなることはないでしょ」お梅は悲しそうな眼つきをした、「自分たち同志で喧嘩をして、あたしにとばっちりをくれることはないわ、あたしなんにも知りゃあしないじゃないの」

「どなったわけじゃねえ」若者は手酌で四五杯、続けさまに呷った、「放っといてくれってんだよ」

「あんたたちどうしてそう喧嘩をするんでしょ、いっそべつべつになっちまえばいいんだわ」

娘は板場へ入っていった。金助はいましがた買出しにでかけたあとだった、お梅は鰹節をかき、海苔をあぶって揉み、その二つを混ぜて醤油をかけた。