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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
こうして同じ役所に勤めている関係から、八束と親しくなったのであるが、八束は笠井にも遠縁に当るので、噂は以前から聞いていた。
俊才という言葉が、そのまま当篏るように極めて才はじけ、孝之助などからみると、びっくりするほど世故に長けた性質で、
――彼には宰相の実力がある。
と評されていた。
職位が殆んど世襲になっていた時代のことで、岡村くらいの身分の者に「宰相」の評がつくというのは異例である。孝之助にはそのままに信じられなかった。自分が「律義之助」といわれるくらい、じみで慎重な性分のせいか、八束の俊敏な才があざやかな綱渡りを見るような、不安定な、危険なものに思われた。
その予感が当った、ともいえようか、或る御用商人とのあいだに、汚職の事実があるのを、ついさきごろ、ふとした機会に孝之助が発見した。
現銀を扱う役目だし、まだ若いことではあるし、あやまち程度なら同情してもいいかもしれない。が、八束のばあいは、手のこんだからくりがしてあり、うっかりすると、他の責任になり兼ねないような、方法がとってあった。孝之助は八束に注意した。
――まだ誰も知らないから、いまのうちに始末をするがいい。