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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

二の二

「もうひとこと云わせて呉れ」

孝之助は声を抑えて続けた。

「笠井のあの人は、岡村のまえの過失を知らない、むろん今日の事も知ってはいない、あの人はおそらく、岡村を世評どおりの人物と思っているだろう、岡村さえ、それを裏切るようなことをしなければ、いつまでもそう信じているに違いない、せめてあの人の信頼を傷つけないで呉れ、一時の情に激して一生を誤るようなことはしないで呉れ」

八束の冷笑は、凍ったように、冷笑したままで、硬ばっていた。孝之助は静かに、息をついで云った。

「これはおれの本心から云うことだ、そっちも本心で考えて呉れ、そして、どうしても承知できなかったら、武士として恥ずかしくない方法を選んで貰いたい、もちろん決闘でもいい、おれは決して拒みはしないから」

云い終って、呼吸五つばかり、八束の眼を見まもってから、孝之助は刀を持って座を立った。

「旦那、どうするんです」

木屋徳がそう云って立とうとした。八束が制止したらしい、孝之助は見なかったが、そのまま廊下へ出ていった。

二の二

祝言の日、孝之助は正午まで勤めた。

午後からは賜暇を願ってあり、そのため、仕事はまえから、早く片づくように、手順がつけてあった。