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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

藩の古くからの習慣で、祝言のあと片づけには、新夫婦も(たいてい形式だけではあるが)手つだわなくてはならない。おそらくはすでに協力生活が始まったということを、教戒するものであろう。また一般とは違って仲人夫妻もあとには残らず、しぜん寝屋の盃は二人だけでとり交わすしきたりであった。

着替えをするまえに、杉乃はもういちど、良平のところへ挨拶にいった。祝言のときには、病床を移して、寝たままで式に臨んだのであるが、彼女は改めて、病間へもいったのである。

――そんなすなおな気持に、なっていて呉れたのだろうか。

これから嫁として仕える。という謙虚な気持のように思えて、孝之助はふと胸の温たまるのを感じた。

寝屋には屏風を(夜具を隠すように)とりまわし、燭台のそばに、作法どおり、盃の支度がしてあった。

白無垢の寝衣に、扱帯を前で結んで、杉乃は孝之助と向き合って坐った。ややほそ面の平凡な顔だちであるが、しもぶくれのふっくらとした顎と、受け口の、ひき緊った唇つきと、そして右の眼尻にある、かなり大きな黒子とが、凛とした表情に、柔らかな、幾らか嬌めいた印象を与えていた。

化粧はしなおしたらしいが、額から頬のあたり、なめらかな皮膚が、蒼ざめて硬ばり、正座した姿勢にも、結ったまま解かない髪(通常は寝屋へ入るときに式の髪は解く)にも、