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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

三の一

孝之助がその原へ入っていったのは、まだ七時まえであった。途中で供を帰らせ、一人でそこまで来た。笠井鉄馬はどうしたか、そこへ来るまでも、来てからも、あたりを見まわしたが、彼の姿は見えなかった。

原へかかるとすぐ、二段ばかり向うに、岡村八束の、立っているのが見えた。孝之助はそれを見届けて、身支度にかかった。

「よく来たな、独りとはあっぱれだ」

八束の呼びかける声がした。同時に、八束のうしろへ、三人の男の出て来るのが、孝之助に見えた。

三の一

八束のうしろにいるのが、いつかの木屋徳という男と、その子分たちであるのを、孝之助は見た。

――これはいけない。

八束ひとりなら、無勝負にして和解の方法がとれると思った。そのくらいの自信はあったのだが、三人も邪魔者がいては、無事に済ませる望みは殆んどない。支度をしながら見やると、八束の(さすがに袴こそつけているが)ふところ手をして、ぬっと立っている恰好は、外聞もみえも棄てた、ふてぶてしさそのものであったし、他の三人は、裾を端折り、鉢巻、襷をかけ、早くも長脇差を抜いていた。そのまま、無頼なかまの喧嘩といったけしきで、――はたし合という言葉のもつ清潔さは、微塵もなかった。