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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
四の一
「そうさせて貰おう、まだ少し頭がぐらぐらするようだから」
「ではおれはでかけて来る」
鉄馬は出ていった。すっかり暗くなった部屋の中で孝之助は、じっと雨の音を聞いていた。
四の一
十一月下旬に父が死んだ。
五年このかた寝たまま、殆んど全身不随で口をきくこともできなかったから、父のためには、寧ろ死は救いだったであろう。かけつけて来た叔母の千寿は、末期の水をとりながら、例のさばさばした調子で云った。
「兄さんは頑固で強情でわからずやだったけれど、とうとう病気には勝てなかったのね、でも、これでさばさばしたでしょう」
また、ずっと付ききりで看護していた、召使の浅乃も、臨終の枕もとで泣きながら、小さい声でこう囁いていた。
「ながいあいだの御不自由を、よく御辛抱なさいました、これでもう御苦労も終りでございます、どうぞゆっくりおやすみあそばしませ」
二十年まえ、母といっしょにこの高安へ来てから、嫁にもゆかず、母の亡くなったあと、病臥した父の世話をひとりで受持っていた彼女には、父のために父の死を、誰よりも祝福することのできるたちばだったかもしれない。孝之助はその囁きを、すなおに承認した。