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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
四の二
「おかしなことを云うじゃないか、私のどこが道化ているんだ」
「不可能なことに舌を疲らせていることさ、孝之助という者には仇名がある、律義之助といってな、その点では故人を凌ぐ人物だろう、いくらうまいようなこと云ったところで」
「いやうまいようなことなど云やあしない、私はただ家風について、叔父のたちばから、一言」
そう昂奮することはない、叔父は馬場下ひとりではないのだから。いや自分は決して昂奮などしてはいないし、するわけもない。といったぐあいに、とめどのない対話が続いた。孝之助はこの二人の叔父の、罪のない口争いを聞くのが好きで、微笑しながらついひきいれられていると、左にいた鉄馬が、
「岡村がやられたよ」
と耳もとで囁いた。孝之助は岡村と聞いただけでどきりとした。
「――なにかあったのか」
「これまでの不行跡さ、直接には洗濯町あたりの借財がこじれたものらしい、食禄半減、五十日の謹慎というはなしだ」
孝之助はにわかに暗い気持になった。
四の二
大雲寺ヶ原の事があってから、孝之助は八束と会っていない。決闘の忌わしい事実は、鉄馬の奔走で、表沙汰にならずに済んだ。木屋徳と二人の子分は逃亡し、八束も従前どおり勤めだしていた。