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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
背中に八束を囲って、こちらへ挑みかかるような姿勢だった。
――そうだ、あれはまだ岡村を忘れてはいない、忘れていないばかりか、ことによると愛しておるのかもしれない。
そう思うのは耐え難いことであった。しかも悪いことには、そう思いながらなお自分が妻を愛していて、その愛が断ち切れなくなるばかりだということである。
――そんなにまでして結婚することは、不自然ではないだろうか。
北畠の叔母はいつかそう云った。彼はそうは考えなかった。この世に在ることは、すべてが偶然の組み合せである。恋はしばしば神秘的な表現で飾られるけれども、二人にとって、お互いが絶対だということはない。甲乙の男女が結びつくのは偶然の機縁であって、さればこそ失敗し、相別れる例が多いし二度め三度めの結婚でおちつくばあいも、少なくはない。……孝之助は杉乃を愛していた。そして、どんなことがあっても、彼女を岡村の手に渡したくなかった。それだけであった。求めて杉乃を娶った気持も、そのために生じた八束との争いも、強く愛する者を幸福にしよう、という情熱、他の大多分の男のもつ平凡な情熱と一般ではないか。
「だがこれは、やっぱり自分の一方的な考え方だったかもしれない」