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わらうあくま
笑う悪魔
野村 胡堂
「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页
た、第一流の豪勢な料理に、肝を潰したのもまた、――もう一度無理のないことだったのです。
正面に主人の熊谷三郎兵衛と夫人の由喜子、モーニングと紋付で、いとも悠揚と控え、それを中心にして三十人の粒選りの客は、凹字形の卓に行儀よく居並びました。主人の三郎兵衛は赫顔肥大のブルジョア型で、夫人の由喜子はぐっと若くて三十二歳、細面の蒼白い顔は、真珠のような深い色調で、切れの長い眼、少し高い鼻、まことに非凡の美しさです。
娘奈々子は二十二、これは先妻の忘れ形見で、継母の由喜子とは姉妹としか見えません。淋しいが品の良い顔立ちで、少し権高だという悪口があるにしても、先ずは申分のない令嬢です。
ピンク色のエヴニングが、朱のバンド、ウエーブした毛が五光のように隈取って、その美くしさというものはありません。
客の中には何々大臣、何々社長、何々議長某、旧家の某伯爵、などというお歴々も交って居りますが、大部分は熊谷合名の幹部社員と、主人三郎兵衛の旧友達で、内輪の小宴ということになって居りますが、実は三郎兵衛、自分の出世と成功を見せびらかして、心の底から喜んだり、嫉んだり、羨ましがったりする身近なものを集めたというのは事実でしょう。