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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

怪しい男

素人の干渉を極度に嫌う、職業人の誇りでしょう。

「美保子さんを死なせてはなりません、どんな事があっても――」

それは恋人としての千種十次郎の激情の奔注であったに疑いもありませんが、副院長の不快らしい白い眼を見ると、花房一郎は引取るように、

「この人の命は恐ろしい疑獄の解決に関係するのです、――この人は今日の十時、この私に大変な神秘を打ち明ける筈でした、それを妨げたのは、悪魔のように賢こい、恐るべき曲者の仕業です」

「――――」

「あッ、それは注射の針の跡じゃありませんか」

副院長が捲った美保子の白い腕――白過ぎるほど白い凝脂の上に、ポツリと赤い傷が、点のように印されて居るのを、花房一郎は指しました。

「解って居ります」

副院長の素気なさ――。

怪しい男

「帰ろう、千種君、此処で何を訊いても無駄だ」

花房一郎もさすがにこの強烈な職業意識に対抗し兼ねたものか、千種十次郎の腕を取って病室を見棄てました。

帰り際に受付に顔を出して、今日の訪問客のことを一と通り訊いた事は言うまでもありませんが、病院の受付は一々患者の見舞客を記憶して居る筈もなく、これは殆んど無駄骨折です。