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たいない

胎内

三好 十郎

「中央公論」1949(昭和24)年4、5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,766 字 · 136 页

青空文庫

……そうだ、ここんとこに、大きな岩の頭が出ていて……(壁の一ヵ所を見ている)……八月十五日の朝も……(頭がいっぱいになって、言葉がとぎれてしまっている)……

花岡 だけど、あれからもう二年もたってしまっているんだぜ。君あ、なにをしていたんだ、その間?……幽霊にでもとっつかれているんじゃないか?

佐山 ……(遠い目つきで花岡を見る)……忘れていたんですよ。……(フッと薄笑を浮かべる)ケットに包んだ米やカンヅメ、そいからクツなぞ、松本の駅でぬすまれちゃって――ボンヤリしてたんですねえ。みんなとられちゃった。いや、帰される時の、オミヤゲの荷物……弱りきっていたんですねえ。たしかに、幽霊みたいになっていたんだ。だから、東京に帰っても――ヘヘヘ。(おかしそうに一人で笑う)

村子 ……東京には、ウチがあるの、あんた? 奥さんは?

佐山 ……子供が一人、います。ウチは丸焼けになって、家内のしんせきのうちの裏の――浅草ですがね――ほったて小屋にすんでて――

花岡 そいで、なにをしているんだい?

佐山 う?……やあ、いろんなことをしたんですよ。カツギ屋……客引き……タバコ売り……上野にもいたけど……そいから、あちこちウロウロして……ダメですね。