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わかとのじょなんき

若殿女難記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页

青空文庫

「へん憚りさまだよ、女御お姫さまから橋の下の乞食まで女という女はこう出来たもんだ、お蔭でおめえなんぞも気が狂わずに済むだあ、この煮干の首っ括りめ」

これらの語彙はすべて朴訥な愛情の表現である。その証拠に令嬢はこういった後で客の肩へしたたか噛み付いた。

「いいかげんにしろすべた阿魔、恐れながら十八万六千石の御尊体だ。痣でもついたら」

「えへん」

外でこう咳ばらいの声がした。例の家来なる者であろう、客は首を縮めて黙り、握り拳で鼻をひっこすった。総じてこの客は、人品に似合わず言葉も挙動も劣等である。なにかといえば拳骨で鼻をこするが、その容子は正に軽子か駕舁き人足といった風だ、けれえなる者にもこれが遺憾だったらしく、「おそめ」から帰る途中の暗がりで、こっぴどく叱られた。

「なんという口の軽いやつだ、ばか者、――あれほど云っておいたのに、このばか者」

「皆ながそう云わあ」彼は平気でにやにや笑った。

「あいつの馬鹿は生れつきだって、へん、久しいもんだ」

五晩めに来たときである。家来なる者が表の暗がりに待っていると、そこへ三人ばかり覆面した侍が近寄って、互いになにかすばやく囁きあった。