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わかとのじょなんき
若殿女難記
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页
六
翌日は伯耆守との対面で、牛込若宮町の上屋敷へいった。
「いいか、くれぐれも云って置くがなにも申すなよ」紋太夫が例の如く噛んで含めるように呶鳴りつけた。「おなつかしゅう存じまする、こう云ったらあとは涙を拭くまねだけしておる、十年ぶりで父に逢って、嬉しさ哀しさに言葉が出ないと云うふりをするんだ」
「だけども紋太さん、上屋敷にも腰元や侍女はいるかね、そうでないとわっちは」
「その口を閉めろ馬鹿者、今日の対面は最初の度胸さだめだ、次には将軍家拝謁という大事がある、肚を据えてやるんだぞ」
六
伯耆守との対面は、すばらしい成功だった。長武侯は病床からわが子を眺め、そのすこやかに逞しい成長ぶりを見て落涙あそばされ、「大助か、大助か」と幾たびも繰返し頷かれた。「りっぱな御成人でめでたい、余もこれで安堵したぞ」
「――――」
若さまは手をついたまま、じっと伯耆守を見上げていた、万感胸を塞いで言句に詰るという態である、双眼からは滂沱と涙があふれ落ちた。十年不遇の公子がいま晴れて父君に会うのだ、お側にいる者はその胸中を思いやって貰い泣きをし、なかには嗚咽の声をあげる者さえあった。