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わかとのじょなんき
若殿女難記
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页
「これに」儀兵衛がそう答えると、なにやら衣摺れの音が聞え、すぐにざあざあと湯の音がした。
「あーっといい湯だ、おい紋太夫」若さまの声である、「このばか者ッとくるか、ばかの柱をかき揚げにして一杯やるからって、紋太夫にそう云え、はっは狼狽えてやがる」
「もうこれきりにあそばせ」宙野が低い声で囁やいた。「角田は彼等がやります、お危のうございますから」
「危ねえのは腰元のほうだ、さっき楓というのに、ちょいとからかったが、今夜もまた寝所じゃあ寝られねえな、ああ」若さまの声がそこでしんとなった。「――なあ儀の字、おれは本当に馬鹿かも知れないぞ、津山では殆んど女というものを知らなかった。おれにとっては亡くなった母上がたった一人の女性だと云ってもいい、だからすべての女性が母上のようにみえる、貞潔で心温かく、汚れを知らず卑賤に染まず、咲きでた花のように純浄だと信じていた、ところがなんと、実際に触れたおんなはどうだ、ひといちばい美しいあの処女たち、賢こさもあり行儀作法も心得たあの処女たちが――」
「婦人は美しいもの強いものに惹かれると申します」宙野が慰めるように云った。「詰るところ若殿のおひとがらと御美男に在すのが」