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わかとのじょなんき

若殿女難記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页

青空文庫

「やめろやめろ、なにが美男だ、おれは本気なんだぞ儀兵衛――津山へ帰りたくなった」

これも怪訝な会話であるが、お許しを願って次へ進もう。中二日おいて、若殿は上屋敷へお移りになった。「上屋敷はうるさいから今までのようにばか騒ぎはならん」紋太夫にこう戒められたが、早速その夜から酒宴、またしても侍女を口説くという始末である。中老の角田精一郎が掠われたのは、若さまが腰元たちとお庭へ出て、鬼ごっこをしていらっしゃる時のことだった。庭では鬼になった若さまが見えなくなり、一方では御殿を退出した角田がお屋敷内で姿を消した。紋太夫一味がどんなに仰天したかお察しあれ。こんどこそ若殿も掠われたというので角田精一郎は二の次にして騒いだ。しかし幸いなことに、その騒ぎのまっ最中に若さまは奥庭から出て来られた。

「どうもたいへんな庭だ」若さまは袴の裾をはたきながらこう云われた。「まるで八幡の藪知らずだ、到るところに計略があって踏み込んだがさいご見当がつかなくなる、戦いの時に敵を誘い込むにゃあ持って来いだ」

「ばか者ッ黙れ」紋太夫は声を殺してこう叫んだ。「御殿を出るなとあれほど申したのを忘れたのか、ここには敵が雲霞とおる、貴様その手に掴まったら」