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わかとのじょなんき
若殿女難記
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页
「ああ――」紋太夫は馬鹿のように口をあけた、「ああ伝吉、貴様か」
正に伝吉である。この物語の初めに金谷の宿で、朴訥な令嬢たちにもてたあの男である。
「不審が晴れねば申してやろう、そのほう伝吉と余を袋井の宿ですり替えた積りであろう、だがその前夜すでに余は伝吉とすり替っていたのだ、袋井にいたのが伝吉で、あの前夜、金谷からまいったのが余自身であった、――これでもはや云うことはあるまい、増井、角田、小林の三名も罪条を自白しておる、遁れんぞ」
物語はめでたく終り申した。一味の処罰が済んで、腹心の士である宙野や金吾らと、はじめて心おきなく酒を囲んだとき、若殿大助さまにはこのように仰せられたと申す。
「これでどうやら、事はおさまった。みんなおまえたちの助力のお蔭だ、――しかしおれにとって、今なにがいちばん嬉しいかわかるか」
若さまこう云って、にこりとお笑いなされた。
「――それはもう、女を口説かなくともよくなったことだよ」