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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

「公郷はお受けをして戻りました。けれどもたいそう苦しみました、――金之助には口に云えない迷惑をかけている、ほかの友達がみんな離れ去っても、彼だけはおれを捨てなかった、さいごまでおれの才能を認め、おれが立ち直ることを信じていて呉れた、……こんどのおれの役目は彼が推挙して呉れたものだ、そして、それは彼を裁くたちばに立つことだ、――たった一人の友、生涯の恩人ともいうべき友を裁く、……こんなことがあっていいだろうか、そんなことが赦されるだろうか、――公郷は本当に苦しみました、見ているこちらが痩せるほど苦しんでおりました」

「しかし私は信じています」金之助は静かに口をしはさんだ、「――彼は命ぜられた役目の重大さを知っている筈です。そんな私情のために、いつまでも苦しんでいる男ではない筈です」

由利江は涙をぬぐうために言葉を切った。それからかすかに頷いて云った。

「自分はりっぱに役目をはたそう、それが金之助への報恩だ。――公郷はそう申しました、袴の上に、ぽろぽろと涙をこぼしながら、そう申しました」

「――――」

「この粗末なお召物は、そのときわたくしが申しつかったものでございます、仕立てもわたくしが致すようにと申しましたし、――公郷も針を持ちました、このお小袖、お羽折、肌着、どれにもひと針ふた針ずつ、公郷が糸をとおしております