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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
七
そればかりか、二人がこのように会うのは今日かぎりになるかもしれないのだ、ことによると再び生きて相見ることはできないかもしれないのである。金之助は胸苦しいような気持におそわれ、ふと太息をつきながら振返った。
「ひとつおねだりしてもいいでしょうか」
「――――」
由利江はびくっと肩を震わせ怖れる者のようにこちらを見た。
「あなたのおてまえで茶を頂きたいんです、道具は母のところにありますから」
「はあ、でもわたくしこんな恰好で」
「初めての、そしてたぶんこれが最後のおねだりです、お願いしますよ」
ではと云って由利江が立とうとしたとき、庭のほうでぱさっとなにかの落ちる音がした。二人は同時に振返った、――金之助は音のしたあたりを見やった。牡丹畑の向うに枝をひろげた梅の樹がある。その繁った葉がくれに、かなり大きくなった実の生っているのが見えた。
「梅の実が落ちたんですね」
金之助は呟くように云った。由利江は息をひそめるように、ひっそりと、暫くそのあたりを見やっていた。
七
明くる日の午ちょっと過ぎに、半三郎から呼びだしの手紙が届いた。――雨はあがったが空は低く雲にとざされ、鬱陶しくむしむしする日だった。