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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

、……おわかり下さいますでしょうか」

金之助は黙って頷いた。彼はいま康継を想い半三郎を想う。五年間、――学友としてお側にあがったとき、かれらには世間の複雑さや生きる苦しみと無関係であった。ひよわで神経質な少年だった亀之助、いつも活溌にとびまわっていた半三郎、……それがいま三者三様のたちばでそれぞれのぬきさしならぬたちばで対決しようとしているのだ。

――おれたちは此処へ来たのだ、そしてここから新しいものが始まるのだ、半三郎、これでおまえの一生がきまるんだ、たのむぞ。

金之助は心のうちでこう叫んだ。

帰ってゆく由利江を、彼は庭の仕切り戸まで送っていった。どんなに幸運にいっても、当分は会うことはできないだろう。会えてよかった、――そしてどうかこれからは仕合せであるように、彼はこう祈りながら、しかし顔にはちからのある明るい微笑をうかべて云った。

「公郷に伝えて下さい、彼の裁きぶりを楽しみにしていると――」

由利江は泣くような眼で見上げ、会釈をして去っていった。――その後ろ姿がみえなくなったときである、右手のほうでとつぜんばさっとなにか落ちる音がした。しんとした雨のなかで、それはかなり大きく聞えた。