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ふとん

蒲団

田山 花袋

「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页

青空文庫

平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見ていた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。

君が門辺をさまよふは

巷の塵を吹き立つる

嵐のみとやおぼすらん。

その嵐よりいやあれに

その塵よりも乱れたる

恋のかばねを暁の

歌を半ばにして、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たまま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、

「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ」

突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしていたが、それがすむと、突如と厠の中に横に寝てしまった。細君が汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。