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ふとん

蒲団

田山 花袋

「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页

青空文庫

五

けれど何も知らぬ姉の前で、打明けて問う訳にも行かぬので、この夜は露ほどもそのことを口に出さなかった。一座は平凡な物語に更けた。

今夜にもと時雄の言出したのを、だって、もう十二時だ、明日にした方が宜かろうとの姉の注意。で、時雄は一人で牛込に帰ろうとしたが、どうも不安心で為方がないような気がしたので、夜の更けたのを口実に、姉の家に泊って、明朝早く一緒に行くことにした。

芳子は八畳に、時雄は六畳に姉と床を並べて寝た。やがて姉の小さい鼾が聞えた。時計は一時をカンと鳴った。八畳では寝つかれぬと覚しく、おりおり高い長大息の気勢がする。甲武の貨物列車が凄じい地響を立てて、この深夜を独り通る。時雄も久しく眠られなかった。

五

翌朝時雄は芳子を自宅に伴った。二人になるより早く、時雄は昨日の消息を知ろうと思ったけれど、芳子が低頭勝に悄然として後について来るのを見ると、何となく可哀そうになって、胸に苛々する思を畳みながら、黙して歩いた。

佐内坂を登り了ると、人通りが少くなった。時雄はふと振返って、「それでどうしたの?」と突如として訊ねた。

「え?」

反問した芳子は顔を曇らせた。