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ふとん

蒲団

田山 花袋

「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页

青空文庫

八

四面山で囲まれた小さな田舎町、その中央にある大きな白壁造、そこに郵便脚夫が配達すると、店に居た男がそれを奥へ持って行く。丈の高い、髯のある主人がそれを読む――運命の力は一刻毎に迫って来た。

八

十日に時雄は東京に帰った。

その翌日、備中から返事があって、二三日の中に父親が出発すると報じて来た。

芳子も田中も今の際、寧ろそれを希望しているらしく、別にこれと云って驚いた様子も無かった。

父親が東京に着いて、先ず京橋に宿を取って、牛込の時雄の宅を訪問したのは十六日の午前十一時頃であった。丁度日曜で、時雄は宅に居た。父親はフロックコートを着て、中高帽を冠って、長途の旅行に疲れたという風であった。

芳子はその日医師へ行っていた。三日程前から風邪を引いて、熱が少しあった。頭痛がすると言っていた。間もなく帰って来たが、裏口から何の気なしに入ると、細君が、「芳子さん、芳子さん、大変よ、お父さんが来てよ」

「お父さん」

と芳子もさすがにはっとした。

そのまま二階に上ったが下りて来ない。

奥で、「芳子は?」と呼ぶので、細君が下から呼んでみたが返事がない。登って行って見ると、芳子は机の上に打伏している。