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ふとん
蒲団
田山 花袋
「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页
二人の相逢うことを妨げることは絶対に不可能である。手紙は無論差留めることは出来ぬし、「今日ちょっと田中に寄って参りますから、一時間遅くなります」と公然と断って行くのをどうこう言う訳には行かなかった。またその男が訪問して来るのを非常に不快に思うけれど、今更それを謝絶することも出来なかった。時雄はいつの間にか、この二人からその恋に対しての「温情の保護者」として認められて了った。
時雄は常に苛々していた。書かなければならぬ原稿が幾種もある。書肆からも催促される。金も欲しい。けれどどうしても筆を執って文を綴るような沈着いた心の状態にはなれなかった。強いて試みてみることがあっても、考が纒らない。本を読んでも二頁も続けて読む気になれない。二人の恋の温かさを見る度に、胸を燃して、罪もない細君に当り散らして酒を飲んだ。晩餐の菜が気に入らぬと云って、御膳を蹴飛した。夜は十二時過に酔って帰って来ることもあった。芳子はこの乱暴な不調子な時雄の行為に尠なからず心を痛めて、「私がいろいろ御心配を懸けるもんですからね、私が悪いんですよ」と詫びるように細君に言った。芳子はなるたけ手紙の往復を人に見せぬようにし、訪問も三度に一度は学校を休んでこっそり行くようにした。