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いもがゆ
薯粥
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 页
……妻の七重は部屋の隅で賃仕事の縫物をしていたが、良人の姿をみると膝の上の物を押し片付け、「お帰りあそばしませ」と云いながら、半(洗面桶)と着替えを持って出て来た。二人はそのまま井戸端へいった。「御家中のお侍衆でございます」水を汲みながら妻が囁いた、「たいそう気色ばんでおいでのようですけれど、なにか間違いでもございましたのですか」「心配するほどのことではない」隼人は汗を拭きながら答えた、「それよりも今日、御老職から米を扶持しようと云われたぞ」「はあ……お扶持を」「扶持を貰えば、おまえが賃仕事をして疲れる分だけでも楽になる、おまえには少し息ぬきをさせてやりたい、そう思った」「まあなにを仰しゃいます」七重は、びっくりしたように面をあげた。びっくりしたというよりも、怨めしそうな眼もとだった。隼人は、すぐに首を振ってつづけた。「むろんそれは、思っただけのことだ、おれは断った、おれが人足をし、おまえが昼夜をわかたず賃仕事をする、そしてふるまうからこそ、貧しい薯粥にも心が籠るのだ、その心が、修業する人々へも通ずるのだ、おのれの教える武道は『心』だ、技ではない、だから心と心との通ずることがなによりも大切なんだ」