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いもがゆ

薯粥

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 页

青空文庫

二

「草原というと、ただの草原か」

「ただの草原でございます、両町の裏の小川に沿った広い草原でやっております」

ふうんと惣兵衛はなにやら云いたげに鼻を鳴らした。しかしそのまま口をつぐんで事務に戻った。明くる早朝、まだほの暗い時刻に、惣兵衛は独りでそっと屋敷をでかけていった。霧のふかい朝で、少し早足にゆくと胸元がしっとりとなるほどだった。両町というのは、城下のほとんど東端にちかいところだった。およその見当をつけて裏へぬけると、霧にかすんで青田と雑木林とが、暈したようにうちわたしてみえる。そしてその霧のかなたから「えい」「おう」というはげしい、元気いっぱいの掛声が伝わって来た。「ほう、やっておるな」惣兵衛は足早にそちらへ近寄っていった。

二

「稽古を終ります」十時隼人がそう叫ぶと、十人あまりの足軽たちはいっせいに木剣をおろし、隼人の前に集って会釈した。みんな着物を浸すほど、汗みずくになっていた。「御苦労でした、支度ができたようですから、すぐに汗を拭いて来て下さい」そう云って隼人が去ると、かれらは小川の畔へいって肌脱ぎになり、黙って手早く汗を拭いた。二十前後の者が多く、なかには三十五六とみえるのもいる。