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むし
虫
江戸川 乱歩
一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页
八
などと独ごちて、ひどく得意を感じさえした。
八
邸について、車を車庫に納めると、もう一度身の廻りを点検して、シャンとして玄関へ上り、大声に台所の婆やを呼び出した。
「お前済まないが、一寸使いに行って来ておくれ。浅草の雷門の所に、○○という洋酒屋があるだろう。あすこへ行ってね、何でもいいから、これで買える丈けの上等の葡萄酒を一本取ってくるのだ。サア、ここにおあしがある」
そういって、彼が十円札を二枚つき出すと、婆やは、彼の下戸を知っているので、「マア、お酒でございますか」と妙な顔をした。柾木は機嫌よくニコニコして「ナニ、一寸ね、今晩は嬉しいことがあるんだよ」と弁解したが、これは、婆やが雷門まで往復する間に、芙蓉の死骸を、土蔵の二階へ運ぶ為でもあったけれど、同時に又、この不可思議な結婚式の心祝いに、少々お酒がほしかったのでもあった。
婆やの留守の三十分ばかりの間に、彼は魂のない花嫁を、土蔵の二階へ運んだ上、例の自動車のクッションの下の仕掛けを、すっかり取りはずして、元々通りに直して置く暇さえあった。こうして彼は、最後の証拠を堙滅してしまった訳である。
この上は、あかずの土蔵へ闖入して、芙蓉の死骸そのものを目撃しない以上、誰一人彼を疑い得る者はない筈であった。