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とうくろうちそう

討九郎馳走

山本 周五郎

「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,250 字 · 21 页

青空文庫

「申上げます、老臣がたの宿所裏手より、騎馬にていちにん出た者がございます」

「いずれへまいった」

「外濠に沿って、まっすぐ矢矧川の方へ駆ってまいりました」

討九郎の酔眼がきらりと光った。彼は屹と暁天をねめあげたが、

「よし! 松之丞、馬曳け」

そう云って大剣をとりに戻った。弥五郎を供に馬をとばして屋敷を出た討九郎はまっすぐに矢矧川の堤へ出ると、ほのぼのと白明のうごきはじめた河畔をすかし見ながら、馬足をゆるめて川上の方へうたせていった。こうしておよそ十二三町ほどのぼったとき、「あっ」と弥五郎が低く叫びながら、手をあげて川の上を指さした、「渡っております」

二人のいるところから更に半町ほど上に当って、いましも馬で川を渡して来る者の姿が見えた。討九郎はただちに馬を下りて弥五郎に預け、

「堤の下に隠れておれ、出るな」と云って走りだした。

よほど馬術にすぐれた者とみえる。水上の方で四五日豪雨がつづき、川は水嵩も増し流れも常よりはげしくなっている。その流れを巧みに乗り切って、疲れたようすもなく浅瀬へとあがって来た。……もちろん此方から渡って、また渡し戻したものに違いない。