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とうくろうちそう

討九郎馳走

山本 周五郎

「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,250 字 · 21 页

青空文庫

まったく予想もしない話だった。厭で厭でたまらない役目である、本来なら即座に承知するはずなのに、討九郎は黙っていた。黙ってしばらく考えていたが、やがて面をあげると、きっぱりとした口調で拒絶した。

「せっかくの御相談ではございますが、この儀はおことわり申します」

「それはまたなぜだ」

「なにゆえかと申したいのは拙者の方でございます、だいいちお上のお沙汰でなく役目交代とはいかなる仔細あってのことでございますか」

主馬は家老の眼を見た。まさかこう反問されようとは考えていなかったのだ、然し源左衛門はすぐ頷いて、

「そうか、ではその仔細を聞かそう」とかたちを正して云った、「じつは数日うち尾張大納言家が当城下へおはいりになる、本来は五月下旬の御参覲であるが、今年はきゅうに繰上げての御出府だとある、……尾張さまと御当家お上とは、かねてより些かゆくたてのあるおあいだがらであるし、またお上の留守城へお迎え申すことゆえ、馳走触れも格別吟味をせねばならぬ、そのほう従来の勤めぶりで、万一にも大納言家の御意にさからう等のことあっては一大事と考え、重役どもあい諮ったうえ一時お役を交代したらということになったのだ」