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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
気の毒なことじゃ。」
子路はとうとう我慢しきれなくなって、腕まくりし出した。
「おッと仲由さんとやら、それがいけない。そう腕まくりをして見たところで、物事はかたがつくものではない。それよりか、お前さんは一たい今の世の中をどう考えていなさる?」
子路は、折角まくり上げた両腕を、だらりとさげて、眼をぱちくりさせた。
「何処も此処も、どろどろの沼みたいになっているのが、今の世の中じゃないかね。え、仲由さん。」
「そうです。たしかにそうです、だから……」
「だから渡場を探していると、お云いかね。そりゃもう、ようわかっとる。だが、どの渡場も気に入らないのが、お前さんの先生ではないかね。」
子路は、相手が孔子を冷かしそうになったので、また両腕に力を入れた。しかし、彼は心の中で、相手のいうことに何かしら共鳴を感じた。うまいことをいう男だな、と思った。そして、内々自分が孔子に対して抱いている不平を、この男の口をとおして聞いて見たいような衝動に駆られた。彼は力みながら相手の顔を見つめた。
「沼に船を浮べては見たいが、泥水のとばっちりをかぶるのは嫌だ、と云うんじゃ、お前さんの先生も、少々蟲がよすぎはしまいかね。