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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
お前の病気は天命じゃ。天命は天命のままに受取って、しずかに忍従するところに道がある。しかも、それこそ大きな道じゃ。そして、その道を歩む者のみが、真に、知仁勇の徳を完成して、惑いも、憂いも、懼れもない心境を開拓することが出来るのじゃ。」
伯牛は嗚咽した。その声は、窓のそとに立っている孔子の耳にも、はっきり聞えた。
「伯牛、手をお出し。」
孔子は、そういって、自分の右手を、窓からぐっと突き入れた。彼の顔は、窓枠の上にかくれて、内側からはちっとも見えない。
伯牛の、象の皮膚のようにざらざらした手が、怯えるように、夜着の中からそろそろとのぞき出た。孔子の手は、いつの間にか、それをしっかりと握っていた。
夜着の中からは、ふたたび絶え入るような嗚咽の声がきこえた。
「伯牛、おたがいに世を終るのも、そう遠くはあるまい。くれぐれも心を安らかに持ちたいものじゃ。」
孔子は、そういって、伯牛の手を放すと、しずかに歩をうつして門外に出た。そして、いくたびか従者をかえりみて嘆息した。
「天命じゃ。天命じゃ。しかし、あれほどの人物が、こんな病気にかかるとは、何というむごたらしいことだろう。