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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

と堀尾君は腕を組んだ。そこへ婆やが上って来て、恐る/\お茶を薦めた。

「お嬢さま」

と婆やは階下へ戻ると直ぐに道子さんのところへ行って囁いた。

「何んな具合でしたの?」

「旦那さまは叱られていらっしゃるようでございました」

「困るわね」

「斯う腕組みをして黙っていらっしゃいました」

「何んな人?」

「痘痕のある怖い人でございます」

「本当に厄介なことが起ったものね」

と道子さんは気が気でない。

二階では主客ソロ/\本題に入る。若い堀尾君は喧嘩で引けを取ったことのない達人である。鳧さんは又○○紡績の人事課を背負って立つ老武者、首を切るのが半商売の人だ。何方も役者が好い。

「一体何ういう経緯だね?」

「恐らくあの書生からお聞き取りになった通りでしょう」

「犬の問題だね。ソモ/\の初まりは」

「はあ」

「些っと大人気なかったね」

「冷静に考えて見れば然うです」

「君は本当に撲ったのかい?」

「はい。やりました」

「それは乱暴だ」

「鳧さん」

「何だね?」

「あなたは一個人としてお出になったんですか? それとも会社の課長としてお出になったんですか?」

「無論一個人としてさ」

「宜しい。それなら対等の資格でお相手をする」