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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
「しかし十月というと未だ一寸間があるじゃありませんか?」
「僕一人で移って、婆さんでも雇います。下宿はもう飽き/\しました」
と堀尾君は急いでいた。就職の報告を奥田君に致す序をもって、初めて道子さんへ一通認めた。以来、道子さんも書くようになった。毎日文通で忙しい。家は未だ見つかりませんかと頻りにそれを言ってくる。
次の日曜には悌四郎君を訪れた。
「岩崎君、到頭有りついたよ」
と言いながら上り込んだ。
「何処だい?」
「○○紡績さ」
「先のところじゃないか?」
「うむ」
「矢っ張り縁があったんだね。幾らだい?」
「五十五円さ」
「ふうむ。僕はこの間上って五十円だ。矢っ張り帝大は金がかゝっているからね」
と悌四郎君はもう金利論を始めた。
「しかし未だ貰わない」
「然う直ぐくれるものか。ナスは?」
「え?」
「ボーナスだよ」
「ナスってのかい?」
「気の利いた人間は皆然う言う。ナスは幾らだい?」
「一月半さ」
「僕の方は二月だよ」
「すると結局同じことになる」
「待ち給え」
「おい。勘定はよせよ」
と堀尾君が制した時、細君が赤ん坊を抱いて挨拶に出た。
「何うだい? 見てやってくれ給え」
と悌四郎君は得意だった。