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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「はゝあ」

「この通り、これは皆君の筆蹟だろう?」

と、鳧さんは机の引出から出して、十五枚念入りに並べて見せた。

「僕のに相違ありません」

「伝票は二寸か三寸の紙片だから、無論重大問題じゃないが、精神の上から考えて見て、斯ういうことは面白くない」

「はあ」

「君は一日に何枚ぐらい書くね」

「百枚ぐらいでしょう」

「百枚の中を十五枚書き潰すと、ロウズが一割五分出る勘定じゃないか?」

「ロウズって何ですか?」

「屑さ。君は知らないのかい?」

「英語ですか? 独逸語ですか?」

「堀尾君、君はそれがいけない」

「はあ」

「百枚のところを十五枚なら、ロウズが一割五分の勘定だろう?」

「はあ。数学に真理のある限り」

と堀尾君は己を制することを忘れた。書き潰しの悪いことは分っているけれど、十五枚丁寧にズラリと並べられたのが癪に障ったのである。

「堀尾君」

「はあ」

「君は僕を茶化すのか?」

と鳧さんも急き込んだ。

「いや、決して」

「それなら態度を改め給え」

「御注意に従って、以来気をつけます」

「僕は君達の為めを思って苦言を呈するんだから、悪く取っちゃ困る」

「分りました」

「宜しい」

「失礼致しました。