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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「大丈夫だ。日曜に越す」

「犬も貰ってくれるかい?」

「うむ」

「有難い。しかし暑いなあ、この部屋は」

「羽織を脱ぎ給え」

「いや、今晩は急ぐ。この間は晩かった」

「苦情が出たかい?」

「うむ。出れば晩いものだという習慣をつけようと思ったらアベコベさ。晩い癖がつくといけませんから、今晩は早く帰って下さいと来た」

「おや/\」

「お父さんは仰有った時間に後れたことがございませんでしたって。主計総監並みだから辛いよ」

とこぼして、清水君は間もなく辞し去った。

堀尾君は次の日曜に清水君の家作へ引移った。期せずして悌四郎君と背中合せになったのは郷里以来深い縁だった。

「裏が明いたから直ぐに知らせようと思ったが、後口が定っていると聞いて落胆していたら、君だったのかい?」

と悌四郎君は驚いた。尤もその日ではない。予め知らせに行った時のことだった。

「明日婆やが着く。僕の下宿へ来ても仕方がないから、君のところを指して来る」

「宜いとも。二晩でも三晩でも泊めてやる」

「独り極めで申訳ないが、急いだものだから」

「一向遠慮は要らないよ。おシメでも洗わせて置く」

「然うしてくれ給え。君も知っている金太のお母さんだ」