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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
二
二
それは何という荒涼とした景色だったろう! 遙かな地平の果てに、雪をいただいた一脈の山々がちぢこまって見える他は、目を遮るものとては何物もない、ただ一面の茫漠とした沼地であった。重く濁った空は、その広い沼地の端から端へと同じ広さで低くのしかかり、沼の全面は枯れすがれて生気を失った葦で覆われて、冷たく鬱した空気が鈍くその上を動いていた。右を向いても左を向いても、同じような葦の黄褐色が目も遙かに続いているばかり、うねり曲って左右に続く堤防の上の道さえ、どこまで延びているのか、遂にはやはり同じ黄褐色の中に見分けもつかなくなってしまう。振り返れば来る来る歩いて来た道も、堤から一二丁の間白く見えただけで、ひと曲りしてそれも丈の高い葦の間にかくされている。その道に沿うてただ一叢二叢僅かに聳えた木立が、そこのみが人里近いことを思わすだけで、どこをどう見ても、底寒い死気が八方から迫ってくるような、引き入れられるような、陰気な心持を誘われるのであった。
古河の町をはずれて、高い堤防の上から谷中村かと思われる沼地の中の道に踏み入ろうとして私はかつて人の話に聞いて勝手に想像していた谷中村というものとは、あまりの相違にすべての自分の想像から持っている期待の取捨に迷いながら、やっとこの土手まで来たのであった。