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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
歩いていく土手の道の内側の処々に、土手と並んで僅かな畑がある。先に歩いていく男は振り返りながら、
「こういう処はもと人家のあった跡なのですよ。」
と思い出したように教えてくれる。もとは、この土地に住んでいた村民の一人だというその男は、この情ないような居村の跡に対しても、別段に何の感じもそそられないような無神経な顔をして、ずっと前にこの土地の問題が世間にかれこれいわれた時のことなどをポツリポツリ話しているのであった。そして、それもかつての自分達のことを話しているというよりは、まるで他人の身の上の事でも話しているような無関心な態度を、私は不思議な気持で見ていた。彼は惨苦のうちにこの土地に未練をもって、今もなお池の中に住んでいる少数の人達に対しても、冷淡な侮蔑を躊躇なく現わすのであった。
「ずっと向うにちょっとした木立がありますね。ええずっと遠くの方に、今煙が見えるでしょう? あの少し左へよった処に、やはり木の茂った処が見えますね、あれがSの家です。まだ大分ありますよ。」
指さされた遙かな方に、ようやくのことで小さな木立が見出された。細い貧し気な煙も見える。