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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
それでも最後に橋番に聞けという。舟橋を渡るとすぐ番小屋がある。三四人の男が呑気な顔をして往来する人の橋銭をとっている。私は橋銭を払ってからまた聞いた。
「谷中村ですか、ここを右に行きますと堤防の上に出ます。その向うが谷中ですよ。ここも、谷中村の内にはなるんですがね。」
一人の男がそういって教えてくれると、すぐ他の男が追っかけるようにいった。
「その堤防の上に出ると、すっかり見晴らせまさあ。だが、遊びに行ったって、何にもありませんぜ。」
彼等は一度に顔見合わせて笑った。多分、私達二人が、気紛れな散歩にでも来たものと思ったのであろう。笑声を後にして歩き出した時、私は、この寒い日に、わざわざこうして用もない不案内な廃村を訪ねてゆく自分の酔狂な企てを振り返ってみると、今の橋番の言葉が、何か皮肉に聞こえて、苦笑しないではいられなかった。
一丁とは行かないうちに、道の片側にはきれいに耕された広い畑が続いていて、麦が播いてあったり、見事な菜園になっていたりする。畑のまわりには低い雑木が生えていたり、小さな藪になっていたりして、今、橋のそばで見てきた景色とは、かなりかけ離れた、近くに人の住むらしい、やや温かなけはいを感ずる。