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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
片側は、すぐ道に添うて河の流れになっているが、河の向う岸は丈の高い葦が、丈を揃えてひしひしと生えている。その葦原もまた何処まで拡がっているのか解らない。しかし、左側の生々した畑地に慰さめられて、もうさはど遠くもあるまいと思いながら歩いていった。
「おかしいわね、堤防なんてないじゃありませんか。どうしたんでしょう?」
「変だねえ、もう大分来たんだが。」
「先刻の橋番の男は堤防にのぼるとすっかり見晴せますなんていってたけれど、そんな高い堤防があるんでしょうか?」
私と山岡がそういって立ち止まった時には、小高くなった畑地は何処か後の方に残されて、道は両側とも高い葦に迫られていた。行く手も、両側も、後も、森として人の気配らしいものもしない。
「橋の処からここまで、ずっと一本道なんだからな、間違えるはずはないが、――まあもう少し行ってみよう。」
山岡がそういって歩き出した。私は、通りすごしてきた畑が、何か気になって、あの藪あたりに家があるのではないかと思ったりした。
ようやく、向うから来かかる人がある。待ちかまえていたように、私達はその人を捉えた。
「さあ、谷中村といっても、残っている家はいくらもありませんし、それも、皆飛び飛びに離れていますからな、何という人をおたずねです?」