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てんき

転機

伊藤 野枝

「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页

青空文庫

鶏は丸々と肥って呑気な足どりで畑の間を歩きまわっている。木立で囲まれてこの青々とした広い菜圃を前にした屋敷内の様子は、どことなく、のびのびした感じを持たせるけれど、木立の外は、正面も横も、広いさびしい一面の蘆の茂みばかりだ。この家の中の貧しさ、外の景色の荒涼さ、それにあの難儀な道と、遠い人里と、何という不自由な、辛いさびしい生活だろう。

二人が腰をかけている処から、正面に見える蘆の中から「オーイ」とこちらに向って呼ぶ声がする。返事をしながら、其方の方に歩いてゆくと蘆の間から一人の百姓が鉢巻きをとりながら出て来た。挨拶を交わすと、それはS青年の兄にあたる、この家の主人であった。素朴な落ちつきを持った口重そうな男だ。主人は気の毒そうに私達の裸足を見ながら、S青年が昨日から留守であるという。家の方に歩いて行く後から、山岡は今日訪ねてきた訳を話して、今日立ち退くという新聞の記事は事実かと聞いた。

「は、そういうことにはなっておりますが、何しろこのままで立ち退いては、明日からすぐにもう路頭に迷わなければならないような事情なものですから、――実は弟もそれで出ておるような訳でございますが。