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のわき
野分
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页
三
そして結局は、小半刻すると蝶足の膳を二つ、つつましく皿小鉢をのせて、なんとも侘しい酒が始まった。
三
はじめは、たしかに侘しかった、しかしやがて老人がぽつりぽつり話しだした。ひと口に云えば身の上ばなしだが、飾らない言葉と、巧みな省略ぶりで、諄いというところが無く、そのうえまったく違った世間のことではあり、又三郎は惹きいられるような気持で聞いた。……老人の一生はごく平凡な、どこにでもある汗と貧苦と、涙と失意とで綴られたものだった、息子夫婦に先立たれて、孫娘と二人で稼いでいる事実だけでも察しはつく、それにもかかわらず、又三郎はそこにしみじみとした深い味わいを感じた。善良で勤勉で謙遜で、いつも足ることを知って、与えられるものだけを取り、腰を低くして世を渡る人たち、貧しければ貧しいほど実直で、義理、人情を唯一つの宝にもたのみにもしている人たち、……又三郎にはそれが羨ましいほど充実したものにみえ、本当に活きた人生のように思えた。
「おれも爺さんのように生きてみたいと思う」彼は溜息をつきながらそう云った、「……世の中はどっちへまわっても苦労なものだ、それならせめて自分の生きたいように生きてみたい、安楽や贅沢だけが最上のものじゃないからな」