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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

八

随って其の前後の経過を暗示せしむるに足る可き最も含蓄ある瞬間を択ばざる可からず。』曰く『同様に詩文は又事物の進行状態を描写するが故に、或る形体に就いて唯一つの特徴をのみ捕捉する事を得。随って一局面より形体全部の象を最も明瞭に髣髴たらしむ可き特徴を択ばざる可からず。』―――大体こんな意味になるだろう。先ず第一の定義からして僕には随分反対の点がある。成る程絵画は事物の共存状態を描くには違いない。けれども前後の経過を了解せしむるに足る含蓄ある瞬間を択ばなければならないと云う理屈が何処にあるだろう。絵画の興味は、画題に供せられた事件若しくは小説に存するのではない。たとえばロダンの作物の中に一人の人間が一人の人間の死骸を抱いて居る彫刻があって、其れに『サッフォの死』と云う題が付けられて居たとするね。ところで其の作品から美感を味わう為には、是非共サッフォの伝記を知らなければならないのだろうか。其瞬間の前後の経過を了解しなければならないのだろうか………。」

八

「………非常におかしな理屈だと思うね。絵画や彫刻の美は何処迄も其処に表現された色彩若しくは形態のみの効果に依って、観る人の頭へ短的に直覚さるべきものだと思うね。