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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

227 怪盗系図

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页

青空文庫

「有難い、――そう聴いて安心したよ。実はな、お栄。俺は、お前の二の腕が見たいのだよ」

「まア」

「万々一だよ、お前の二の腕に、半兵衛や宇八や定五郎と同じ、賽の目の入墨があれば、口惜しいが百年の恋もお仕舞いだ」

「そんなものがなかったら八さん」

「俺はどうしてくれよう、お栄」

八五郎がこれをいうために、一升自腹を切った上、あらゆる酔態と狂態を演じなければならなかったのです。

「さア、見せて上げるわ、八さん。自慢ではないけれど、私の二の腕を、つくずく拝むのは八さんが始めて」

「――」

「その二の腕に、蚤に刺された跡でもあったら、私は口惜いけれど那須野ヶ原に退散しますよ」

そういいながらお栄は、行燈を引き寄せて、その灯りの先へ、右の二の腕を無造作に捲くり上げるのでした。

「フーム、ない」

八五郎は酔眼を据えて、思わず唸りました。賽の目は愚か、玉を伸べたようなお栄の腕には、蚤に刺された跡もなかったのです。

「今度は左」

お栄は身体の位置を変えると今度は左の腕を高々と捲くって見せました。

見事な凝脂は肩から滑ってトロリと淀んで、腋の下から肘関節の桃色に流れる美しさは想像も及ばぬ魅力ですが、そこもまた無瑕の壁で賽の目の入墨などという汚らしいものはありません。