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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

227 怪盗系図

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页

青空文庫

一万二千両

仁助店の――いわゆる雀の巣のような裏長屋に死骸が運び込まれた時は、八五郎は幾度逃げ出してしまいたい衝動に駆られたことでしょう。四十前後の見る影もなく世帯疲れのした母親と、お雪の外にまだ四人もある小さい妹と弟たちが、無慙な元吉の死体に取りすがって、たしなみも遠慮も忘れて、ワーッと慟哭の大合唱を始めてしまったのです。

「親分、弟が、あんまり可哀想です。こんなむごたらしいことをしたのは、一体だれでしょう」

お雪は八五郎の袖にすがりついてこうかき口説くのでした。

「下手人は大方わかっているよ、心配することはねえ。三日経たねえうちに召捕って、おしおきに上げてやるよ。銭形の親分が心得ているんだ、なア」

ポロポロと涙をこぼしながら、娘の肩を叩いて、恐ろしい安請合いをする八五郎だったのです。

一万二千両

平次と八五郎が顔を合せたのは、その翌る日の朝、明神下の平次の家でした。

「どうした、八。ぼんやりしているじゃないか」

猿屋の揚子を使いながら、平次は井戸端から声を掛けます。

「ぼんやりもしますよ。あんまり癪にさわるから、夜半過ぎまでかぎまわったが、小僧殺しの下手人は見当もつかねエ」