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なべしまかいのかみ
鍋島甲斐守
吉川 英治
「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,322 字 · 23 页
八
向う側の軒下を揉んでいた樽神輿が、掛け声をあわせて、此っ方へ寄って来た。
金棒だの、鈴の音だの、汗いきれの掛け声に勢をつけて、まず、神輿の鼻を、どうんと格子へぶつけた。
地震のような家鳴が次に起った。ふすまも障子も滅茶滅茶に踏みあらして、更に、座敷の真ん中へ、樽神輿を抛りだしたのである。
『どこへ失せた、御犬野郎は』
『キリキリ舞して、二階へ逃げ上りゃがった』
『ざまあみろ』
物凄い爆笑が、家の中と家の外で起った。そして、ふだんの云いたい事を、一人一人、口を極めて、云いちらした。
その騒ぎの戸外から、
『お高どの、――お高どのは居ませんか』
青ざめた顔つきの若い浪人者がさけんだ。
八
ぶち壊した家の中へ、樽神輿を抛り出してやすんでいた若衆連は、
『や、寺小屋の息子さんだぜ』
『新之助さんだ』
と、ちょっと白けて見えた。
新之助の血相が、いつになく優しさを消していたからである。
もう、嫁もあっていい年頃なのに堅くて親思いなものだと町内ではうわさのいい若者だった。
『おまえ達何しているのか』
『見た通りでさあ。こんな事あ、天王様の祭礼にゃあめずらしいこっちゃあねえんで』