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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
とりいそぎ治安法官に実情調査を命じた。命を受けた担当者は誰であるかというと……甲の記録では伊那半左衛門となっているが、乙の文章には越前守大岡忠相だとしてある。演者としてはどっちでもいいが、ひとつにはにんきなどの点も考慮して、ここには大岡忠相ということにしておきたい。
周知の如く越前守には、名判官という定評がある。指令を受けた彼はあらかじめ事件の全貌をぐっと睨み、小首を捻ったのち、得たり賢しと部下を八方に散らしたのである。
この探索の苦心には触れたくない。忠相としては肝胆を砕いたであろうし、部下たちは東奔西走、そこは草臥れたぐらいのものではなかったらしい。が、詰るところ天一坊の悪事は摘発され、大岡越前としては法の威厳を示す必要上この坊主をば白洲の縁側から蹴落すのであるが、演劇ではここは大向うなるものが唸りだすそうである。
「あのここな、大逆犯人めが」
というようなことを忠相が断言する。これに対して天一坊はどうしたか。砂利の上へ蹴落された彼としては、そこはやはり自尊心というものもある関係から、いちおうふてくさったような姿勢をとるわけだろう。そして一種のせせら笑いをして、