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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

第四席 吾助系図妄想のとりことなること

ねえと眼のくり玉へ焼け火箸をぶっ通すぜ」

「ふわやもやもやふわ、はばいやもや」

こう返答をして、老人はよたよたとどこかへ逃げ去ったのである。

第四席 吾助系図妄想のとりことなること

並びに長屋一同大迷惑のこと

さもあらばあれ、繩屋吾助は、今や系図の持主となった。

それは謡曲の「鉢の木」で周知なる佐野源左衛門常世を祖とし、十一代吾助に及ぶ綿密なる列伝で、但し仔細に検討すれば、随所に御落胤あり夫婦養子あり廃嫡あり失踪者ありという結構で宗祖なる常世とはぜんぜん血縁関係のないことを証明しておるのである。

が、元来系図なるものは、それが在るだけでもう役目は足りるのであってもしそんな詮索をするとなれば、万世一系と信ぜられるところの皇室におかせられ奉っても、越前のどこかに皇孫あり、これを迎えて継体天皇とす、などという押っ付け仕事のような記録があるではないか。で、それでつづめたところ、吾助は系図の所有者となったわけである。

却説。吾助は自家の由緒正しき系図を繰り返し眺め、また眺めするうちに、繩屋吾助である自分が、ちょっと洗ってみれば佐野源左衛門常世の後裔である、という事実の厳粛さに、心からおどろきの溜息をもらすようになったのであった。