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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
「ますます本格正統だ、これは古刀も古刀、よほど昔の、うむ、鎌倉期のものか、或いはもっと古いか知れないて」吾助は繩屋の眼力でこう睨んだものだろう、「いや恐れ入った、何百年となく研ぎに研いで研ぎあげ、幾戦場を往来した古つわものに違いない、かかる伝統ゆかしき品は拝見するが初めて、いや恐れ入った、正しく本筋でございましょうて」
吾助は禿から汗を吹き出させ、お短刀を鞘におさめると、坐り直して若者を見、それから銀太金太の説明を求めた。
「そこで聞くのだけれども、いったいこのお方を、どうしておまえたちが」
「それなんですよ」銀太が待兼ねていたように、「今日あっしと金太で客を浜町まで送っていったんで、こう降っちゃあやりきれねえ、稼ぎより躯のこったと、帰るつもりで河岸っぷちをやって来ますとね、両国橋のまん中にこの人が立ってるんで」
「橋のまん中、……両国橋の」
「側に橋番の爺がいましたよ、聞いてみると橋銭が無いのに、平気でずんずん、悠々と渡ってゆくってんで」
「悠々と、へええ、生れが違うんだな」
「もう平気の平左でね、まるっきり大名の若殿みてえなんだそうでね、あっしと金太も見るとこの通りの御人品、こいつあお気の毒だ、なにか深いわけのあるお方だろうと思ったもんだから、ともかくもてんで橋銭を立替えましてね、聞くてえとまるっきり世間知らず